議第32号ってなに?
議第32号とは、2月定例会で上程された「富士市特別職の職員の給与に関する条例等の一部を改正する条例制定について」です。その趣旨は「富士市特別職の職員(市長、副市長、監査)の給与、富士市議会議員の議員報酬、富士市一般職の任期付職員の給与を引き上げる」こと。改定の内容は次の表のとおりです。
職名 | 改定前の月額 | 改定後の月額 | 改定額 |
---|---|---|---|
市長 | 99万円 | 100万円 | 1万円 |
副市長 | 80万円 | 81万円 | 1万円 |
常勤の監査委員 | 54万4,000円 | 55万円 | 6,000円 |
議長 | 65万3,000円 | 66万円 | 7,000円 |
副議長 | 59万4,000円 | 60万円 | 6,000円 |
議員 | 52万4,000円 | 53万円 | 6,000円 |
改定の経緯
今回の改定は、市長の附属機関である富士市特別職報酬等審議会(以下、審議会)から提出された「特別職報酬等の額について」(以下、答申)に基づいています。審議会は「議会の議員の議員報酬の額並びに市長、副市長及び常勤の特別職の給料の額について審議すること」が役割であり、公共的団体の代表者等、公募による市民、学識経験者等、10人以内の委員で構成されています。全国の多くの自治体では、特別職の報酬等を公正かつ客観的に判断するために、同様の審議会を設置しています。では、どのような審議経過と内容だったのでしょうか。詳細はリンクをご確認いただくとして、ここでは特に議員報酬についての結論を簡潔にまとめます。https://www.city.fuji.shizuoka.jp/shisei/c1001/fmervo000000gy49-att/hngtkl000000j9jo.pdf
議員報酬の引き上げ要因は、近年の急速な物価の上昇や、民間企業の賃金の引き上げ等による。一方で、「経済の好循環」を多くの市民が現時点で実感できているとは言い難い。しかし、コロナ禍で多くの課題を抱えた市政運営に少なからず寄与したと推察できるとともに、報酬の減額を実施したことは評価に値する。非常に難しい判断ではあったが、これまで以上に職務に精励することの期待も込めて引き上げが適当である。
討論と採決の行方
議第32号については、討論の通告に従って賛成の立場から2名、反対の立場から4名の議員が意見を述べました。賛成派からは基本的に審議会の答申を踏襲する意見、反対派からは市民生活に寄り添うこと、行財政改革を実現するうえで議員は身を切る姿勢が不可欠であるとの意見などがありました。討論後の起立採決では、【賛成24名】【反対7名】(※議長を除く)により賛成多数で可決されました。なお、討論・採決の全容は、富士市議会録画映像「令和7年2月25日(本会議)」で視聴することができます(29:30~)。https://fuji.gijiroku.com/g07_Video_View.asp?SrchID=1220
私が反対した理由
議第32号について、私は議員報酬の引き上げに【反対】しました。理由は以下のとおりです。
①一つの根拠が崩れた
これまで特別職の職員の給与及び富士市議会議員の議員報酬を改定する際には、財政の健全度が一つの指標とされてきました。特に、地方交付税の「交付団体」か「不交付団体」かで評価が分かれます。地方交付税とは、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方公共団体が一定の水準で行政サービスを提供できるようにするため、国から地方公共団体に交付されるお金です。簡単に言えば、「財政的に困っているところには国からお小遣いを渡して格差を少なくしましょう」ということです。つまり、「交付団体」であれば財政的に厳しく国に頼らなければならないから財政の健全度が低いと評価される一方で、「不交付団体」であれば財政的に余裕があって国に頼らなくてもいいから財政の健全度が高いと評価されます。今回、審議会からの答申を受けたのは令和6年10月28日です。この時点において、富士市はたしかに不交付団体でした。しかし、じつはその約2ヵ月後の12月24日、令和5年度決算及び令和6年度の国税収入の補正に伴い、地方交付税(普通交付税)の再算定が行われ、富士市が2年振りに交付団体へ移行するとの通達が総務省から発表されたのです。つまり、給与・報酬を引き上げると判断した一つの根拠が崩れてしまったのです。この点については、反対討論の中で鈴木幸司議員が述べています。
②市民生活は厳しい状況にある
今回、議員報酬の引き上げ要因として、近年の急速な物価の上昇や民間企業の賃金の引き上げ等があげられていました。しかし、私はこれをすんなりとは受け入れられませんでした。なぜなら、誰もが近年の急速な物価の上昇に悩まされている反面、誰もが賃金の引き上げを享受しているわけではないからです。むしろ、物価の上昇に賃金の伸びが追い付かず、市民生活は厳しい状況にあると考えています。たしかに、民間企業はコロナ禍による景気の冷え込みからは脱しており、大企業は相次いでベースアップしていますが、大多数を占める中小零細企業にまで波及しているとは言えません。この点については答申でも触れられており、私はその見解に重点を置きました。
③財政状況は楽観視できない
①の地方交付税の話題に戻りますが、そもそも財政の健全度が高いとされる不交付団体はいくつあると思いますか。全国の市町村数は1,718(令和6年10月1日時点)ありますが、そのうち不交付団体はわずかに82団体(令和6年度当初 ※再算定により75団体に減少)しかありません。そのため、基本的に不交付団体を維持してきた富士市は一般的に裕福な自治体だとされています。たしかに、他の自治体と比較すればその通りかもしれません。しかし、右肩上がりに経済成長してきた時代が終わり、基幹産業も一時期の勢いを失い、さらに少子高齢化が加速しています。それにくわえて、本市では富士市総合体育館の建設(令和7年4月1日供用開始予定)、富士駅北口駅前広場再整備、富士市立中央病院の建て替えなど、大規模事業が進行しています。どれも市民生活を向上させるための投資ではあるのですが、昨今は人件費や資材の高騰によって、当初事業費から大幅な増額を余儀なくされることばかりです。議員報酬の引き上げ分によって到底どうにかなる話ではないのですが、少なくとも私はまず自分の足元から見直して、行財政改革を推進していきたいとの思いです。
真意はなにか? ー政治家として考えていくべきことー
まず、真意とは別に最終的な判断についてお伝えします。今回、私は反対したものの、議案は可決されたので不本意ながら引き上げ分の議員報酬を手にします。しかし、もちろんそこは筋を通します。全国で同様の議案に反対した議員は、公職選挙法に反しないかたちで慈善団体に寄附する、法務局に供託するなどの対応をしているですが、市民の皆様からいただいたものは市民の皆様に還元すべきだと考えています。そのため、残りの任期2年の引き上げ分については、議員の身分ではなくなったときに何らかのかたちで富士市に寄附します。
さて、それでは真意についてです。私の真意は公職に就く者としての説明責任を果たすこと、それに尽きます。このように賛否が分かれる議案では、とかく「賛成した議員は?反対した議員は?」との議論に至ります。それは有権者にとって非常に気になるところですから結構ですし、議案に対する議員別賛否は富士市議会ウェブサイトにも公表されています。懸念しているのは「善悪」の色付けがされてしまうことです。それが必ずしも間違った行為だとは断言できませんが、私はそれを望んではいません。各議員が熟慮したうえでの決断を尊重していただければ幸いです。ちなみに、審議会においても全会一致で議員報酬の改定が決まったわけではありません。じつは、10名の委員のうち、6名は「教育長を除いて引き上げ」、4名は「市長のみ引き上げ」と判断しました。つまり、4名は議員報酬は据え置くべきだとの意見だったのです。それを踏まえれば、議員間において賛否が分かれるのは当然であり、むしろ議会として健全なあり方を示すことができたのではないかとすら感じています。
今回のことを契機に改めて議員報酬について考えました。よく「議員は公務員なんですよね?」と言われますが、正確に言うと私たち議員は特別職の公務員であり、一般職の公務員とは区別されています。そのため、一般職の公務員のような就業規則はありません。その一方で、住宅手当や通勤手当はありませんし、退職金もありません。また、私のような専業議員は厚生年金ではなく国民年金に加入しています(※議員年金制度は平成23年に廃止)。人口規模にもよりますが、市議会議員選挙では最低でも200万円程度の選挙費用がかかるとされていますし、その後の政治活動にもお金がかかります。さらに、任期は4年間と決まっています。そう考えると「議員はお金をもらいすぎている!」との批判には議論の余地があろうかと思います。しかし、そのような声が上がることは大いに理解できます。なぜなら、議員自身が報酬の妥当性を十分に示すことができていないからです。議員報酬の算出方法には、原価方式(蓄積方式)、比較方式(類似団体比較)、収益方式(成果重視)などがありますが、それらを活用して議員の役務に見合う対価を検討する機会があってもいいと思います。また、議員報酬と同時に議員定数についても議論していくべきです。仮にも、私の反対理由が解消ないしは改善されるとともに、市民の皆様に納得していただけるだけの根拠と妥当性を示すことができれば、議員報酬の引き上げも選択肢になるでしょう。ただ、最も重要なことは、私たちの仕事をどんどん可視化させ、その内容や成果をお伝えすることです。私の場合、主要な情報発信はインスタグラムだけですから、その時点で受け手が限定されてしまいます。イベント報告が多く、市政にかかわる内容が少ないことも反省しなければなりません。議員としての活動をご理解していただけるように努めてまいります。
最後になりますが、審議会の委員の皆様には、ご多忙のところ貴重なお時間を割いて真剣にご審議してくださったことを心より感謝申し上げます。
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